研究内容
初代星・初代銀河・SMBH、フィードバックの物理
宇宙最初の星はビッグバンからおよそ1億年ほど経った頃に誕生し、それに続いて初代銀河、超巨大ブラックホールが形成したと考えられています。これら宇宙最初期の天体形成は、宇宙最電離を促す重要過程であり、現在の宇宙の基盤を築くものです。そこで我々は初代星、初代銀河、そして超巨大ブラックホールがどのように生まれたのか理解すべく理論・観測の双方から研究しています。
理論研究として主にスーパーコンピュータを用いた多様な流体シミュレーションを行なっています。超新星爆発や活動銀河核といったフィードバック効果を考慮した宇宙論的構造形成シミュレーションを実施し、バリオンとダークマターの質量集積から初代銀河の形成に至る過程を調査しています。シミュレーション結果に基づいて、初代銀河の形成頻度や性質、そして将来観測の可能性などが議論されています。また、初代銀河を構成する個々の星やブラックホールの質量成長過程を理解するため高解像度のズームインシミュレーションを行なっています。初代星の質量分布とその死後残されるブラックホールの成長速度を理解することで、宇宙最初の超巨大ブラックホールが形成される過程を明らかにしようとしています。
一方で、観測面ではこれまでのすばる望遠鏡やHSTによる成果を礎に、現在JWSTによってより深い宇宙の銀河形成や超巨大ブラックホールの形成が議論されています。そして、次世代の超大型望遠鏡であるELTが2020年代後半に稼働することで、いよいよ初代銀河や初代ブラックホールと呼べる天体が直接観測される可能性が高まります。ELTはその高い集光力と補償光学による高空間解像度により、遠方銀河の詳細な内部構造も明らかにすると期待されています。我々は国際先導の枠組みにおいて、理論・観測の垣根なく対話し、ELT時代の遠方宇宙探査がより実りあるものになるよう最善の準備を進めています。
銀河形成〜原始銀河団
銀河団〜宇宙大規模構造
階層的構造形成理論では、宇宙では小さい構造から先に形成され、徐々にそれが重力で集積し、銀河や銀河団を形成すると考えられています。そして最終的には宇宙大規模構造と呼ばれる網目構造の巨大な構造が形成されます。
宇宙大規模構造には、宇宙の進化の過程を紐解く重要な情報が多数含まれています。例えば銀河のクラスタリング(集積度)の強弱には宇宙の加速膨張に関する情報が含まれていますし、クラスタリングの信号の中のバリオン音響振動のピーク位置から宇宙の幾何学を決定することができます。さらにクラスタリングの非等方性から重力理論に関する知見を得ることも可能です。
また宇宙大規模構造の進化においては重力が支配的な役割を担いますが、宇宙の中で重力が働く構成要素のうち約85%がダークマターと呼ばれる、光では観測できない謎の物質です。重力レンズ効果を用いることで、直接観測できないダークマターを間接的に観測することができます。
我々はこれまですばる望遠鏡のHSC(Hyper Suprime Cam)のサーベイデータを用いて、重力レンズ効果の解析を行なってきました。我々の結果は米国の主導するDark Energy Survey (DES)や欧州主導のKiDSサーベイと並んで、宇宙論モデルに制限を与えています。この経験を生かし、次のステージであるVera Rubin天文台のLSSTや、Nancy Grace Roman、Euclidなどの宇宙望遠鏡ミッションと協力し、更に精緻な宇宙論モデルの検証を行います。
主にアリゾナ大学、CCAと協力し、様々なレベルの解析パイプラインや解析手法の開発に取り組みます。
装置開発
ELT MORFEO 反射鏡の制作組み立て:
ULTIMATE WFI中間帯域フィルターの制作:
HSC 中間帯域フィルターの制作:
すばる望遠鏡の主焦点に取り付けられているHSCカメラには多数の光学フィルターを装着することができます。HSCのようなイメージング観測において、観測された銀河の波長方向の情報を取り出すために、決められた波長の光だけを透過させる光学フィルターを装着します。HSCにはもともとg,r,i,z,Yの5つの広帯域フィルターが設置されており、これ以外にも多種の狭帯域フィルターも利用可能です。今回我々が制作するのは、400nmから1000nmまでの可視波長域を連続的かつ比較的高分解能で分割するような光学フィルター群(中間帯域フィルター)です。このフィルターは重力レンズ効果観測において必須となる「銀河の赤方偏移」を精度良く推定するために非常に重要な役割を果たします。
それ以外にもライマンブレイク銀河の精緻な選択や、銀河の統計的な形状の相関(intrinsic alignment)など、様々な銀河物理、宇宙論に対して重要なデータを提供することが可能になります。