国際先導研究
「宇宙における天体と構造の形成史の統一的理解」

ENGLISH

概要

概要





背景

本研究は、宇宙の初期における星や銀河、超大質量ブラックホールの形成から銀河団への成長、そして現在の階層構造がどのように形作られたのかという根源的な問題を、可視光から赤外線の天文観測データを用いて解明することを目指しています。すばる望遠鏡は、圧倒的な集光力と高性能な検出器を活用して世界最先端の観測を行ってきました。特に、主焦点に設置されたHyper Suprime-Cam (HSC) は、広い視野と高感度を誇り、日本主導で進められているHSCサーベイは、宇宙再電離期から現在までの宇宙構造と銀河形成の研究を推進し、学術界に大きな影響を与えています。


現在、観測装置は大きな変革期を迎えています。地上望遠鏡では8m級から30m級の超巨大望遠鏡への移行が進み、米国の8.4m望遠鏡Rubinは大規模な時系列データを効率的に生成するサーベイ専用望遠鏡として計画中です。また、宇宙望遠鏡も、ハッブルから2021年に打ち上げられた6.5mのJames Webb宇宙望遠鏡(JWST)に移行し、世界の観測戦略は新たな段階に入ろうとしています。

目的 ―これから目指すべき地平―

このような背景のもと、日本が HSC サーベイの強いモーメンタムを保ちつつ、更に世界をリードするためには、日本の研究者がこれまで培ってきた科学的成果や技術開発の知識を、国際共同研究である次世代望遠鏡へと接続していくことが重要です。そして、これまでに得られた知見をより多角的に発展させるために以下の 5 項目を目標として掲げました。

・時系列データにより、宇宙現象の変動をリアルタイムに捕捉する。

・より遠方の宇宙を観測し、宇宙の極初期での初代星・初代銀河形成を理解する

・高赤方偏移から現在まで、連続的な構造形成進化を理解する

・遠方天体の分光観測により、天体の物理状態を詳細に理解する

・HSC サーベイ観測の大規模化・精密化により、更に強力な統計力を得る

方法

上記目標を達成するために、若手研究者を送り出すプラットフォームを形成するための手段として、すばる望遠鏡をベースとした開発と、外部の観測装置に貢献するための開発を並行して行い、さらにそれらの観測結果を解釈するために重要な理論研究も推進します。ULTIMATE計画は、すばる望遠鏡に新しい補償光学装置を取り付け、宇宙望遠鏡に匹敵する画像解像度を達成することができます。すばる HSC に中間帯域フィルター (HSC-MB) を搭載し、世界初の非常に暗い銀河の赤方偏移 (距離) を精密測定します。これにより、宇宙の広範囲に渡る銀河進化を連続的に調査し、Rubinや Roman 望遠鏡などが行う重力レンズ探査による宇宙論解析にインパクトを与えます。また、MORFEO は欧州の Extremely Large Telescope(ELT) の補償光学装置ですが、日本独自の技術を投入することで、ELT の観測時間を取得することが可能となります。こうした比較的小規模な装置開発により、世界最先端の研究課題に対して多くのチャンスが開かれます。これは天文学コミュニティ全体の発展に資するものであると同時に、世界で活躍できる若手研究者を育成するための効率的戦略となっています。

科学目標

宇宙には星、銀河、銀河団、大規模構造といった階層的構造が存在しますが、これまで均質な大規模データに基づく系統的な研究は少ないです。近年、データ駆動サイエンスの進展により、宇宙構造形成進化の統一的理解が可能になりつつあり、RubinやJWST、ELTなどがその推進役となっています。特に、HSC-MBによる精密な銀河の距離推定や、ULTIMATEと組み合わせた原始銀河団や大質量銀河の発見が期待されます。これにより、初期宇宙の大規模構造の時間発展を精密に描き出し、階層的構造形成論に新たな制限を加える可能性があります。


また、初代銀河の形成や宇宙再電離、巨大ブラックホールと銀河の共進化、大質量銀河の誕生と進化に関する核心的な疑問に答えるため、世界初の39m超巨大望遠鏡ELTに搭載される補償光学装置MORFEOを日本独自の技術で開発し、2028年からの観測において先端的な研究を進めます。さらに、2032年に予定されるTMTでもこれらの研究を発展させ、宇宙論的シミュレーションを駆使して銀河形成やブラックホール進化の物理的理解を深めます。


さらに詳細な研究内容については、こちらのページをご覧ください。

共同研究体制

我々の研究チームは、HSCサーベイのPIである宮崎聡氏を中心に、10名の分担者と約30名の大学院生・若手研究者から構成されています。分担者には、HSCサーベイの経験者やすばる望遠鏡のコアメンバーが含まれ、観測的天文学や宇宙論の専門家が揃っています。
このプロジェクトでは、M3eXプログラムを通じて、日本全国から若手研究者を集め、国際共同研究を推進します。具体的には、アリゾナ大学に若手研究者を派遣し、JWSTデータを用いた研究や、HSCの中間帯域フィルターによる観測データを共有します。プリンストン大学では、Rubinプロジェクトに若手研究者を参入させ、共同研究を推進します。また、NYCのCCAでは、数値シミュレーションの共同開発やデータ解析ツールの開発を行います。

イタリアのINAFとは、ELTの補償光学装置MORFEOの開発に参画し、国際科学チームの一員として活動します。さらに、オーストラリア国立大学(ANU)との連携により、すばる望遠鏡への補償光学(GLAO)の搭載を実現し、先端的なAO技術開発に取り組む若手研究者を育成します。これにより、日豪チームでの共同研究が進み、ULTIMATEでの科学成果を最大化することが期待されています。


より詳細な派遣先についてはこちらのページをご覧ください。

若手育成プラン

我々は、若手研究者を米国(Arizona, Princeton, CCA)、欧州(INAF, MPI, DAWN, ESO)、オーストラリア(ANU, Swinburne)などの研究機関に派遣する予定です。Arizonaでは宇宙論研究、PrincetonやCCAでは理論研究、INAFやANUでは技術開発を進めます。若手研究者が現地で共同研究をスムーズに開始できるよう、事前にオンラインで代表者や現地の研究者と入念な準備を行い、滞在中の生活サポートも提供します。さらに、代表者や分担者が定期的に現地に滞在して共同研究を促進し、研究交流を深めます。

長期滞在経験者は10%以下、短期滞在経験者は30%で、コロナの影響で派遣が低迷していましたが、70%以上が長期滞在に興味を持っており、派遣計画の需要が高いことが確認されました。我々は、M3eXという独自のプログラムを通じてシニア研究者が若手のメンターとなり、若手同士でサポートするシステムを構築します。3年目以降は対象範囲を全国に拡大し、国際共同研究を促進します。天文学会での特別セッションや国際会議を開催し、情報交換やネットワークを強化します。これにより、長期海外渡航経験者を5年後には50%以上に増やし、国際化の潮流を持続的に築くことを目指します。

これまでの若手研究者の派遣履歴はこちらのページをご覧ください。